キャリアチェンジ 専門職特化

1. 「現役時代と同じ年収を確保したい」という経済的な欲求（待遇ギャップ）

自衛官は50代前半で退職するにもかかわらず、その時点での給与水準は一般サラリーマンよりも高水準にあるケースが多いです。そのため、再就職に際しては、以下のミスマッチが生まれます。

• 企業側の評価軸との齟齬:

民間企業は中途採用者に「現役時代に培った特殊技能や専門知識」に対して給与を支払います。自衛官の持つリーダーシップやマネジメント能力は高く評価されるものの、民間ビジネスで直接的な収益を生む営業、企画、高度ITなどの専門スキルが不足していると判断されがちです。

• 年齢と給与のギャップ:

50代半ばという年齢は、民間企業では管理職や高度専門職として高年収を得る層です。しかし、未経験分野では**「新人」扱いとなり、企業側が提示する年収は、現役時代よりも大幅に低い水準（例：年収200万円台）**になることが一般的です。

• 結果としての不満:

再就職後の年収が大幅に下がると、生活水準の維持が困難になるだけでなく、「自分のキャリアや能力が正当に評価されていない」と感じ、仕事への不満やモチベーション低下につながり、これが短期離職（ミスマッチ）の一因となります。

2. 「ビジネス社会で活躍したい」という自己実現の欲求（役割ギャップ）

自衛官は、組織内で階級が上がるほど、作戦立案、組織管理、人材育成といった**「企画・戦略的」な役割を担います。退職後も、その経験を活かして民間企業で重要な役割（営業企画パーソン、幹部候補など）**を担いたいという強い欲求があります。

• 「作業要員」への違和感:

しかし、実際には再就職先の多くが、体力や規律性を活かした警備、清掃、運転などの**「作業要員」**としてのポストになりがちです。

• スキルと職務のミスマッチ:

自衛官が持つ「組織マネジメント」や「問題解決」といったポータブルスキルは高いものの、民間企業が求める「市場の動向分析」「顧客への提案ロジック構築」といった**ビジネス固有の「情報編集力」が不足しています。

このスキル不足のため、本人が希望する「活躍できる企画・営業ポスト」ではなく、組織で必要とされる「作業ポスト」に配置され、「こんなはずではなかった」**という役割のミスマッチが発生します。 

このように、自衛官の定年再就職のミスマッチは、高い自己評価と期待に対して、民間ビジネスに特化した具体的なスキルが不足していることによって生じる、構造的な問題と言えます。